「カルボナーラが好き」から始まった築港のイタリアン。ご夫婦で経営する「DRATERIA」

「カルボナーラが好き」から始まった築港のイタリアン。ご夫婦で経営する「DRATERIA」

「カルボナーラが好きだった」——その一言から、料理人としての人生が始まった。東京でシェフとして働いていた細川竜司さんは、家族の事情で大阪へ移住し、縁のなかった築港でイタリア料理店を開いた。イタリアで学んだ郷土料理への考え方を大切にしながら、夫婦二人で店を切り盛りする姿からは、料理と人に真摯に向き合う覚悟が伝わってくる。

きっかけは、カルボナーラ ”好き”だけを頼りに、イタリア料理の道へ

― なぜイタリア料理を始めようと思ったんですか?

実は、料理人になったきっかけがカルボナーラなんです(笑)。
25歳の頃、何をやっても長続きせえへん時期があって。「自分、何が好きなんやろ」って考えた時に、なぜか思い浮かんだのが「カルボナーラ好きやな」ということやったんです。
そこから、「じゃあ一回、イタリア料理やってみよう」と思って、最初に働いたのがイタリア料理のお店「カプリチョーザ」でした。
人生の分岐点が、まさかの“カルボナーラ好き”やったというのは、今思い返しても自分で笑ってしまいますね。

イタリア料理の本場に挑んだ ― 修行の先で気付いた、郷土料理の大切さ

― イタリアへ行くと決めたとき、不安はありませんでしたか?

正直、不安だらけでした。言葉も話せへんし、知り合いもいないし、「ほんまにやっていけるんかな」って。でも、日本で中途半端にやるより、一回ちゃんと本場を見てみたかったんです。怖かったですけど、行かへん後悔の方が大きかったですね。

― 現地で一番大変だったことは何ですか?

やっぱり言葉です。料理の名前も指示も全部イタリア語で、最初は何を言われてるか分からへん。怒られてるのか、注意されてるのかも分からんことがありました。でも、分からへんままにしたくなくて、必死で覚えました。

― イタリアでの経験から、考え方は変わりましたか?

かなり変わりました。最初は「すごい料理を作りたい」って思ってたんですけど、現地では郷土料理が一番大事にされていた。特別な日に食べる料理より、日常の中にある料理の方が、ちゃんと守られているんです。

― 「郷土料理が基礎」という考えに気づいたきっかけは?

どの店に行っても、その土地の料理が当たり前のように出てくることです。派手じゃないけど、ブレてない。郷土料理を知らずにアレンジだけしても、それはイタリア料理じゃなくなる。そう思うようになりました。

― 今のお店づくりに、その気づきはどう生きていますか?

流行りを追いすぎないことですね。ちゃんと土地に根付いた料理を、丁寧に作る。それを築港でどう伝えるかを考えています。難しくしすぎず、でも本物であること。そのバランスを大事にしています。

伝える前に寄り添う ― メニューに込めた思い

― お客様に届けるのに意識していることはありますか?

いきなり難しいものだけは出さなことです。ピザみたいな親しみやすいメニューも置きながら、少しずつ郷土料理を知ってもらう。「これ何?」って聞いてもらえるところから始めてます。

イタリア風ふわふわ鉄板チーズオムレツ

― おすすめのメニューは何ですか?

ベネチアの郷土料理「バッカラ・マンテカート」です。干しダラを戻して、時間をかけてペーストにする。シンプルですけど、めちゃくちゃ手間がかかる。量や味の強さも重くなりすぎへんように、でもちゃんと印象に残るように調整してます。

ベネチアの郷土料理「バッカラ・マンテカート」

― お店づくりで、特にこだわっていることは?

「気取らないけど、本物が出てくる店」ですね。築港という場所も含めて、ふらっと入れるけど、ちゃんとイタリアの郷土料理が食べられる。テラス席も、ベネチアの雰囲気をイメージしてつくりました。

― オープンして3ヶ月、印象に残っていることはありますか?

一回来てくれた人が、また誰かを連れて来てくれた時ですね。料理だけじゃなく、人として覚えてもらえてる気がして。あと、大阪関西万博の開催期間中に本場イタリアの方に「美味しい」って言われた時は、正直ホッとしました。

「一人だったら続いてない」 ― 夫婦で続ける理由

― 夫婦で店を経営する中で、大切にしていることは?

ご主人
正直、店が回っているのは彼女のおかげだと思っています。自分は料理のことしか見えていないことも多いですが、彼女はお客さんの表情や空気をちゃんと見ている。僕が厨房に集中できるのは、外のことを全部任せられる存在がいるからですね。

奥様
私は、彼の料理に対する真剣さを信頼しています。どんなにしんどくても、手を抜かないし、妥協しない。料理に向き合う姿を一番近くで見ているからこそ、「この人なら大丈夫」と思えます。

― 夫婦で一緒に店をしていて、「よかった」と感じる瞬間は?

奥様
お客さんに「ごちそうさま、美味しかったです」と言ってもらえた時ですね。その言葉を一緒に受け取れるのが嬉しいです。家に帰ってからも「今日あのお客さん来てくれたね」と話せるのも、夫婦でやっているからこそだと思います。

ご主人
営業が終わった後、二人で片付けながらその日の話をする時間が好きですね。大変なこともありますが、一人だったら続けられていないと思います。

― カルボナーラは、メニューにないんですか!?

そうなんです。原点やからこそ、簡単には出したくない。軽い気持ちで作る料理じゃないんです。カルボナーラは、今も自分の中では特別な存在ですね。

― この店を通して、築港で実現したいことは?

「大阪市最西端のイタリアン」として、この街を知るきっかけになれたらええなと思ってます。料理を通して、築港って面白い場所やなって感じてもらえたら嬉しいです。

所在地:大阪府大阪市港区築港4丁目2-7サクラガレージ

電話番号:070-5502-5470

営業時間: 火~土: 17:00~23:00 (料理L.O. 22:00 ドリンクL.O. 22:30)

      日、祝日: 12:00~21:00 (料理L.O. 20:00 ドリンクL.O. 20:30)

■編集後記

やりたいことと、実際にできることは決して同じではない。
「好き」という気持ちを貫き続けることは、簡単そうに見えて、実は何度も立ち止まり、悩み、迷う連続なのだと、この取材を通して強く感じました。

料理人としての道も、イタリアへ飛び込む決断も、決して順風満帆ではなく、多くの不安や試練があったからこそ、今の一皿、今のお店があるのだと思います。そしてその道のりを、いつも隣で見守り、支え続けてきた奥様の存在が、このお店の温かさをつくっているように感じました。

私自身、大学で学ぶ中で課題に行き詰まり、「これでいいのか」と立ち止まることがあります。そんな時こそ、原点に立ち返ること、そして当たり前のように支えてくれる家族や友人がいることのありがたさを忘れてはいけないと、改めて気づかされました。

夢に向かって突き進むご主人と、その背中を信じて支え続ける奥様。
築港に佇むこのお店には、料理だけでなく、夫婦の歩んできた時間と、周囲への感謝の気持ちが静かに滲み出ています。

いつか私も、自分の「好き」と真正面から向き合い、後悔のない選択ができるように。
そして何より、誰かに支えられて今の自分がいることへの感謝を忘れずにいたいと思います。

——正直に言うと、
私はこのご主人がつくる、メニューにはないカルボナーラを、どうしても食べてみたい。