「3日で辞めたかった」— 築港の老舗「静月」二代目が語る、継承の後悔から見つけた職人哲学

「3日で辞めたかった」— 築港の老舗「静月」二代目が語る、継承の後悔から見つけた職人哲学

築港商店街にお店を構える和菓子屋「静月」 。ご夫婦2人で営み 、親子2代で味を守り続ける 。2代目店主の西谷人志さんは、かつて会社員をしていたが 、あるきっかけで家業を継ぐことに 。しかし、店に入って3日で後悔したと話します 。一度は辞めたかった和菓子屋を、なぜ60歳になった今も続けているのか 。その半生と、和菓子に込める情熱に迫ります。

会社員から和菓子の世界へ — 「昼寝」がくれた転機

―お店が始まったのはいつ頃からですか?

昭和40年に父から始まった。俺は後継や。子供の頃から和菓子に触れてきて、食べたいものを食べて、手伝いたいこと手伝っていた。小学三年生の頃から年末はおもちで。今60歳やから9歳からの50年間くらいは年末遊びに行ったことがない。今は甥や姪、俺らにとっても年末の楽しみになって、染み付いているものや。

―お父さんからお店を継ぐ時はどんな思いでしたか?

当時、会社勤めで外周りの帰りにお昼ご飯を食べに実家に寄った時、父親が昼寝していた姿を見たことがきっかけで、「オレ家継ぐわ」って。昼寝ができるってことで継ごうと決めた。それだけじゃなくて、昔から触れていた和菓子屋の仕事が染みついていたのもあるな。今まではただ、きっかけがなかっただけ。

―継ぐことに抵抗はなかったんですか?

全然ない。和菓子しか知らなかった。アルバイトとか会社勤めとかしたけだしっくり来なかった。会社勤めしたのは、高校の先生に「社会に出て会社に入るのもいいぞ」と言われてやってみた。社会勉強しに行ってみた。まんじゅうの修行もしていなかったから、父から教わった。

理想と現実のギャップ — 3年間の苦悩

―和菓子を始める前に修行はしたのですか?

修行はしてへん。父親に教えられた。けど、何も教えてくれへんかった。というより、教えようが無かったんやな。経験が全てやから。だから、三年間自分が何をしているのかさっぱりわからんかった。季節によって種類が変わるから、それの繰り返しで、その違いが分からんくて、気づいたら三年経っていた。いいのか悪いのか分からないままひたすらやるしかなかった。

―三年やってコツを掴み出したなって感じだったんですね?

コツなんてない。コツじゃないけど、この時こうするとかは分かるようになってきたけど。やっていく中で「今や!」っていうか瞬間が出てくる。それが分かるようになってきたって感じやな。でもそれがいつなんかは分からんくて、毎日やっていく中で発見やな。今も毎日考えながらやっている。

―和菓子を作り続けてきて、思い入れのある和菓子はありますか?

みかさとおはぎやな。食べては作って、食べては作っての繰り返しやった。おはぎもみかさも何個食べたか分からへん。おはぎのあんも中身のご飯もどんなんがいいかな。って。おはぎは毎日食べている。自分の朝ごはんみたいに、味見している。他の有名なお店のおはぎも買って、いい所学んで、先輩のマネしながら試行錯誤している。

和菓子は「単純」ゆえに難しい — 経験が物言う世界

―和菓子を作る中での譲れないこだわりはありますか?

“自分が食べて美味しいもの”。実践の実験の繰り返し。父のレシピをベースに改良している。あんこの砂糖の配合も変えている。父の時代のあんこは甘すぎたりするから、さらに美味しいと思う配合に変えて作っている。色んなお店の和菓子も食べて、美味しいを研究している。

―和菓子を作り続けてきて、思い入れのある和菓子はありますか?

みかさとおはぎやな。食べては作って、食べては作っての繰り返しやった。おはぎもみかさも何個食べたか分からへん。おはぎのあんも中身のご飯もどんなんがいいかな。って。おはぎは毎日食べている。自分の朝ごはんみたいに、味見している。他の有名なお店のおはぎも買って、いい所学んで、先輩のマネしながら試行錯誤している。

お客さんの声から生まれた人気商品「フルーツ大福」

―今やお店の顔ともなったフルーツ大福はいつ頃から始められたのですか?

最初はいちご大福から始まった。東京で始まったいちご大福が関西にも入ってきて、平成の初めくらいから作り始めた。他のフルーツ大福は最近のことで、きっかけはお客さんの声から。パイナップルとあんこが合うことだけは知ってたから、初めはパイナップルからスタートしたね。徐々に増えていって今の種類がある。

―フルーツ大福大好きなのですが、フルーツの素材選びでのこだわりとかはありますか?

果物には強くないけど、旬のものを選ぶようにしている。特に、フルーツ大福は始めて気づいたけど、出始めよりも沢山出ている時期の果物が1番美味しいね。あとは、あんこに合う果物と合わない果物ははっきりしている。今旬の苺なんかは、酸味が強いやつの方があんこに合うね。苺は品種改良されて味が変わるから毎回合うのを探すのが大変や。他にも、ちゃんと熟れて無かったり、熟れ過ぎてたりとか、あんこに合う素材選びは結構大変やな。

夫婦の連携・支える奥様

ご主人と共にお店を守り続ける奥様の思いとは?

―和菓子を始める時どんな思い出嫁いで来られたのですか?

結婚するまでは、看護師をしていたんです。結婚したら仕事辞めないといけないと悩んでいたけど、母親から「看護師の経験が無駄になることはないし、結婚してみたら」みたいな感じで言われ、結婚を決めました。和菓子がというより、自営業って言うのは結構不安でしたね。あとは、嫁いで来た時は若っかたのもあって、お客さんの方が年上で大変でした。今は以前来てくれていた人が亡くなったり、逆に次の世代の若い子達が来てくれたり、また非常に変わりました。

―和菓子屋さんを始めて嬉しいと感じる瞬間はどんな時ですか?

「美味しい」って言われた時は嬉しいですね。あとは、親に連れられていた子が今度自分の子供を連れてきたりとか世代が変わって成長が見えるのがまた嬉しいですね。

静月のソウル

―和菓子屋を続けていて、嬉しかった瞬間はどんな時ですか?

嬉しいって言うより、ホッとする。「美味しい」って言われたら、全部売り切れたら、嬉しいじゃなくて、ホッとする。ホッとして、安心して、それがジワジワ嬉しいに変わっていく感じやな。

―最後に和菓子を通じて届けたい気持ちは何ですか?

「俺の熱いソウルを届けたい」やな。(笑)

これは冗談やけど、あんこは一所懸命に炊いている。シンプルやからこそ、どうやったら美味しもん作れるか考えている。自分が目指すものが何かって言うのを見つけるまでが大変やと思う。見つかるまでは頭でっかちになるだけやし、魂もないし、分かるまでが難しいね。これは、和菓子だけじゃなくて、学生とかもそうやと思う。昼寝がしたくて後継いだからそのギャップが大変やったな。店入って3日で後悔した。でもな、後継やから世間体でな辞められへんかった。しんどいし、休みないし、大変やけどな。

御菓子司静月築港支店

所在地:〒552-0021 大阪府大阪市港区築港1丁目14−12

電話番号: 06-6573-5949

日曜日定休日


■編集後記

「石の上にも三年」という言葉があるように、三年間継続していくこと、そして三年間でやっとモノの本質が見えてくるということを、今回のインタビューで深く考えさせられました。

私も同じもの作りを学ぶ学生として、答えがない日々に向き合い、逃げ出したいと思うことばかりです。しかし、継続した先に得られるものは、きっと継続した人にしかわからないのだと、西谷店主の言葉が心に深く響きました。

店主は「三日で辞めたい」状況を続けられた理由に、周りからのプレッシャーがあったからだと答えてくれました。私たちが生きる今の時代では、そのような”プレッシャー”というものが減り、逃げることも多くなっているのかもしれません。一度始めたことを逃げるのではなく、“継続する”ということに、私たち自身が取り組んでいくことが必要なのではないかと考えます。

この記事が、読者の皆様にとって、継続する先に得られるものの価値を、改めて見つめ直すきっかけとなると嬉しいです。